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痩せ枝や 花尾踏みしめ いくとせを
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冨嘉記2011/11/24


目覚めとともに襲ってくるのは部屋に飛び交う羽虫ではない。強烈なネガティブだ。考えて見れば当然だ。どうせ俺のような人間はベッドで安らかに死ぬことはできない。ここは俺の魂が存在してはならない場所なんだ。わかっている。俺は行きつけの店に行き腹を満たそうと思った。閉まっていた。店じまいしたらしい。ここの店主には家族があったはずだ。高校生の娘もいたはずだ。この家族はどうするのだろうか。かつての笑顔の絶えない店にはもう永遠に足を踏み入れられない。

部屋の中のごたつきのなかで俺は考える。目の前でレスラーの引退試合を流していた。酷く退屈な試合だ。打撃の一つ一つが場当たり的で、とても金の取れる試合ではない。しかし俺はこのレスラーの試合を何十回と見続けてきた。頭の中には入らないし、娯楽にもならなかったが、目は離せなかった。この男は何を考えて生きてきたのだろう。20年も身体中を傷だらけにして、この男の一回しかない生涯は幸せだったのだろうか。幸せだったのだろう。引退試合を迎えられたのだから。

ニコ生をした。その日は珍しく人がきた。複数人来た。体調不良明けの放送だったので、見慣れた名前はいなかった。俺は身の上を話す、視聴者は総じて口を揃えてこういった。「お前は精神異常者だ」。わかっていたつもりだったが、自分がアスペルガーなどと考えたこともなかった。しかし、曰く知識が豊富らしい彼らが言うには、俺は典型らしい。「すぐにでも医者に行け」とも言われた。「入院して一生出てくるな」とも言われた。「犯罪者予備軍」とも言われた。俺は頭の先から喉、胃、臍にかけてすっと熱が引き冷静になっていくのを感じた。

俺が気付いた時にはベッドにいた。羽虫も飛んでいなかった。軽快なメロディで携帯電話がメールの着信を知らせていた。時間は夕方前だった。昨晩いつ眠ったのか覚えていない。酒はもう一ヶ月断っていた。薬も飲んでいない。昨晩の記憶はやはりなかった。パソコンを開いて確認したが、俺はもう一ヶ月ほどニコ生をしていなかった。外出したら、閉店していた店は開いていた。俺はまた同じレスラーの引退試合を見ている。俺には俺が何者であるのかわからない。窓の外には俺の部屋の窓ガラス目掛けて放水する男たちがいる。風切り音のような笛の音が常に聞こえる。水の音と風の音が止まない。ポストを見るために部屋を出ると、アパートの俺の部屋の扉にビニールが貼られていた。



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