酷く曖昧な日々を送っている。自分が目覚めているのか眠っているのか、今でさえわかることはない。

Twitterでは原発廃止論者の活動が活発になってきた。原発導入の過程を政府とマスコミの陰謀だと唱える者もいる。私は「騙されたてめぇらが悪いんだよばーか」と思いながらクレープ食べてる。チョコクレープだ。とても美味しい。100円だと考えると若干高くつく気もするが


震災後１週間は長かった。実に長かった。部屋に籠もりっきりの日も含めて、時間が随分と長く感じられた。その間不安はなかった。毎日毎日日が昇るまでテレビの地震中継を食い入るように見つめていた。そのくせ２週目は飛ぶように過ぎた。過ごした時間の内容は変わらないはずだったが、２週目はとても早かった。それは夏休みの最後の二週間にも似ていた。


余震も減ってきた。ふと目覚めるとすべてが夢であったのではないかと思う。今月末は予定通り教育実習の事前説明があって、予定通りに卒業式が行われ、予定通りにまた朝まで後輩の部屋で飲み、予定通りに春の新刊が完成して手元に届き、予定通りに入学式が行われると思える。でも余震は時折起こる。そのたびにロフトベッドの下に吊っている温度計が揺れるのを、随分と不思議な気持ちで眺めていた。


教職は諦めた。単位が取れなかったからではない。ただ自分の国語力に自信が見いだせなくなったからだ。人に語る口さえない人間が、人に語り方を教授できるとは到底思えなかった。教員採用試験は受ける。しかしこれは一つのけじめとして区切るためにしか存在しない。一次試験さえ通らないだろう。今の私は教本に向かう気力さえない。


酷く寝付きが悪い。入眠剤を処方されているが、この二、三週間はあまり効いている実感がない。毎夜毎夜、自分の、二年後だったり四年後だったりの極めて近い未来を想像して震えが止まらなくなる。過去に積み重ねのない子どもが、なんら覚悟を持たず大人になるとこういう症状が出るらしい。そういえばもうかれこれ八年近く前から父にそんなことを言われ続けていた気がする。気付くのが遅すぎた。これは致命的であった。


夢を見た。酷くグロテスクな夢だ。人に寄生して人を怪物に変える存在がコロニーを闊歩していた。数少ない生存者は広い食堂に避難し出入り口を塞ぐが、壁を破って得体の知れない連中が入ってくる。人にとりつき、形を変え化け物になる。私は道々で拾い集めた光り輝くエネルギーのようなものを腕に纏って奴らを殴る。そうすることで化け物はたやすくその身体を肉片に代えるのだが、結局そのエネルギーは尽きてしまう。私は自分の拳と腕が壊れていくのを実感しながら、骨の砕けた腕を振り回して戦っている。夢はそこで終わりだった。


希望がみえるとしたらそれは空であったと、私は停電の夜に思い知った。道を挟んでむこうにあるセブンイレブンがどれだけ明るかったのかは、震災後に閉店してから気付いた。大学は現在入構を禁止されている。大学内の遊歩道も節電のために夜間は消灯しているらしい。今ならみえるはずだ。この街のうたい文句を裏切らない、満天の星空が。


夢を見た。高校時代の同窓会館の夢だ。学年集会が行われている。学年集会でクラス毎に並び、ラジオ体操をしている。聞いたことのないラジオ体操だった。先頭で見たことのない教員がラジオ体操の指揮を執っている。だが、「両手を横に広げて屈伸の運動」に至って、全員が全員、ばらばらの行動を取り始めた。誰もこの「両手を横に広げて屈伸の運動」を知らないのだ。場はパニックになった。走り出す男子生徒もいるし、泣き出す女子生徒もいた。私はいつの間にか四つん這いになって、這うようになんとか動く。となりのとなり、そのくらいのクラスの列があった場所まで這ってきた。学生たちの制服は皆、私の高校時代のものと寸分違わない。その中で、私は背中に重いものを感じた。振り向くと、私に馬乗りになっている女生徒がいる。黒いストレートの髪で、黒縁のメガネをかけた女生徒だった。私は彼女が自分の恋人であることを知っていた。私は文句も言わず、黙っていた。彼女も黙っていた。顔は蝋人形のように空虚であった。私は前を向き直った。中学時代の同級生の女子が私を見下ろしていた。この女子は同じ高校ではなかった。太った女子だった。今はもう名前も覚えていない。






以上。

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